医家向け 超音波による骨盤計測方法

7.骨盤入口部最短前後径(UAPD 超音波最短前後径)の計測

通常、産科的真結合線が骨盤入口部において、最も短い前後径である場合がほとんどであるわけですが、1~2割の妊婦において産科的真結合線の下方にさらに短い径線(前後径)が存在する場合があります。

下図に示しますように、岬角より約3cm下方の仙骨辺縁像上の計測起点から、恥骨までの距離を計測しますとこれがUOCより短い妊婦が少なくないということがわかってまいりました。こうした妊婦では分娩異常を起こしやすいことがわかってきました。


図-14

図-15

図―16
現在、私は全例の妊婦で、左図(図-16)に示しますように骨盤入口部において2~3箇所の前後径を計測するようにしております。

図-16のように、UOC①、UOC②、UOC③などとして記録しておきますと、後述します骨盤開角や仙骨形態異常の診断に有用です。

このうち最短のものを超音波断層による骨盤入口部最短前後径(UAPD)として、CPDの診断に有用ではないかと考え、現在調査中です。まだ結論は出ておりませんが、胎児大横径(BPD)との差(UADP- BPD)が3cm未満の場合、児頭骨盤不適合(CPD)の可能性が高くなり、2.5cm未満の場合は、超音波断層法上のCPDとして診断してよいのではないかと考えております。
UOCやUAPDが12cm以下、あるいはUAPD-BPDが3cm以下であっても、胎児頭部が骨盤内に充分陥入し固定している場合には何とか経膣分娩可能ですが、回旋異常や分娩遷延の起こる可能性が高くなります。

8.骨盤開角(PA pelvic aperture angle )の計測
超音波骨盤開角(UPA ultrasonographic pelvic aperture angle )の提唱

産科的真結合線と第一仙椎前面とのなす角度が骨盤開角ですが、 通常はGuthmanX線撮影によって計測されます。これを超音波断層法で計測することが可能です。最近の装置では角度を計測することも出来るようになっています。

骨盤開角について、その重要性を強く主張されておられるのが長崎県で産婦人科医院を開業されておられます山崎裕充先生です。 山崎先生によれば、骨盤開角の平均値は86.6度(X線撮影によるデータ)であり、骨盤開角が小さくなればなるほど帝切率は指数関数的に増大するとのことです。分娩を管理する際に、特に分娩の最終段階での難産を予想するのに非常に重要なものなのですが、意外にも臨床的にはあまり使用されていない現状があるようです。 骨盤開角について、適当な英訳がみつかりませんでしたので、山崎先生のご意見で、PA(pelvic aperture angle)としております。

岬角から下方3cmくらいの仙骨辺縁像上の点と岬角とを結んだ線とUOCとのなす角度を超音波骨盤開角UPAとして計測しています。

我々の調査では、超音波断層による骨盤開角(UPA)の平均値は88度くらいです。

鹿児島大学の調査で、骨盤開角が80度未満で、さらにUAPD- BPDが3cm以下の場合には帝切率が有意に上昇することがわかっております。 骨盤開角80度未満  + UAPD-BPD3cm未満では分娩停止をひきおこしやすく、分娩第Ⅱ期における胎児仮死を引き起こす可能性がありますので厳重な監視が必要となります。

実はこの調査結果については、1999年か2000年の(もうあまりよく覚えていません。)日本産婦人科学会に提出を試みたのですが、残念ながら不採用でした。したがってあまり自信を持って言えることではありません。UPAは全く私の個人的な提唱です。後述しますが、UPA についてはその測定方法の曖昧さが問題でして、それが学会不採用の原因ではないかと考えてあります。UPAは不採用でも仕方なかったのですが、UAPDは採用してほしかったかなと今でも残念です。

9.UPA(超音波骨盤開角)骨盤開角測定のその後

私はUPAをその後も、測定し続けていますが、あまりに測定誤差が大きいので、充分なエビデンスを示す事は不可能だろうと思っています。  コンベックス断層法で角度を計測すると、超音波入射方向を少し変えただけで、測定値が大きく変化します。しかしながら、骨盤開角が80度未満の計測結果が何度も出る場合は、難産になる症例が多いという印象を持っております。したがって、現在も、これを計測しており、診療に役立てているつもりです。

「妊婦さんの骨盤」というものは妊娠中および分娩中にその大きさ、形状を微妙に変えている可能性があるようです。胎児の児頭が骨盤内に下降してきますと、その傾向は顕著になってくるようです。その際に、骨盤開角は変動するようです。
逆に、浮遊児頭の場合はあたかも骨盤は児頭を拒否するかのように、かたくなにその入口部を閉ざしているように見えることがあります。そのような場合は骨盤開角の変動はすくないようです。

超音波による産科的真結合線の測定値も、ある程度の測定誤差があり、かなりアバウトな検査であることは否めません。
そして、骨盤そのものの大きさ、形状が妊娠経過とともに変化していくという事が考えられ、たとえば最初は非常に狭い骨盤と判定していた妊婦さんの骨盤が胎児が下降してくるにつれて、妊娠8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月と測定していると、だんだんと広がっていく場合もあるようです。

おわりに

胎児頭部に側方から超音波をあてますと、図-1のように頭蓋底と頭頂部の下方に 音響学的陰影が生じますが、児頭中央部では超音波減衰が少なく音響学的には「窓」 の役割をはたしており、その下方の読影はむしろ容易になります。このように胎児頭部はUOC 計測を援助するものであり、妨害するものではありません。

UOCを計測するためには、ある程度の大きさに 発育した胎児頭部の骨盤内への下降が必要です。妊娠28週頃から UOCを計測可能です。骨盤位の場合は計測困難ということになります。

この方法に慣れれば、毎回の妊婦健診で、さらには分娩経過中にでも、あたかもGuthmann法で何回もX線撮影をしているかのような診察 をする事が可能になるのです。

日本産婦人科学会用語委員会の定義によれば、OC(産科的真結合線)が9.5cm未満を狭骨盤、 9.5~10.4cmを比較的狭骨盤としています。この基準値について、山崎裕充先生は文献2)で次のように指摘されています。

『これらの基準値は極めてきびしく設定されており、例えて言えば、”小学生の女子は狭骨盤であるので難産になりやすい”と言っているようなものである。言っていることは 正しくても、小学生が出産することはないので、実際に役立つ事はほとんどない。』 私も同じ意見です。 この定義は現代女性にあったものに変更すべきであると思います。個人的にはOCが10cm未満を狭骨盤とし、10~11cm未満を比較的狭骨盤と定義してもらいたいところです。OCの平均値は約12cmくらいが妥当 なところではないかと考えております。

くりかえしますが、UOC(超音波計測による産科的真結合線)はOC(産科的真結合線)と全く同じもの ではありません。私の調査ではUOCの最小値は10.9cmで平均値は約13cmでした。UOCはOCよりも 1cmくらい長めに計測されるようです。私の経験から勝手に言わせてもらうと、超音波診断によれば、UOC11cm未満が狭骨盤で、UOC11~12cm未満が比較的狭骨盤と提唱したいところです。

超音波による骨盤開角計測については、現在のところ、80度未満を異常としております。

反論は多数あるでしょう。CPDを診断する事は確かに不可能でしょう。「曖昧な事は言うな。」とも言われそうです。しかし、重症新生児仮死や脳性麻痺症例は1例でも減らしたい。そういう思いでUOCを今日も計測しています。

他に、超音波断層による仙骨形態異常の診断と言うテーマもあります。図-16に示したようにUOC をUOC①、UOC②、UOC③にわけて計測していくと、ある程度仙骨形態異常も診断できるのではないかと考えております。現在、扁平型、重複岬角型、漏斗型の三つに分類して調査中です。

文献1)
Katanosaka M,Yoshinaga M,Fuchiwaki K,Nagata Y.
Measurement of obstetricconjugate by ultrasonic tomography  and its significance. Am J Obstet Gynecol,1999;180:159-162

文献2)
山崎裕充 CPD判定の数学的解析 ペリネイタルケア、1994;13(3):204-216

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