超音波による骨盤計測(Ultrasonic Pelvimetry)

人間の骨盤(こつばん)は、左図のように、横から見ると曲がったトンネルみたいになっており、お産の時にはこの骨のトンネルを赤ちゃんがくぐりぬけて生まれます。

この曲がった骨盤トンネルは、動物の中では唯一直立歩行をしている人間特有のものらしいのです。しかも人間の女性はこれまた人間特有の大きな頭の赤ちゃんを産まなければならないという大変な宿命を背負っているのです。

犬などの四足歩行の動物では骨盤トンネルはまっすぐであるらしく、しかも赤ちゃんの頭は小さいので安産になりやすいのですが、人間の場合は宿命的に難産がつきまとうことになるのです。

トンネルのひろい人は安産となり、せまい人だと難産(なんざん)になる確率が高くなります。したがって、妊婦さん自身が自分の骨盤の広さや形を前もってわかっていれば大変に有益な事だと思います。

この骨盤の広さや形を測ることを骨盤計測(こつばんけいそく Pelvimetry)といいます。ふつうは骨盤をレントゲン撮影することによって骨盤計測が行われます。レントゲン撮影では放射線が胎児にあたる(ごく微量ですが放射線に被爆する)わけですので、何回も検査することはできません。通常、妊娠末期にせいぜい1回撮影できるだけです。レントゲンによる骨盤計測には少なからず制約があり、アメリカでは胎児への放射線被爆が問題視されており、最近はあまり行われなくなってきているようなのです。

私は23年前ぐらいから、安全な(放射線被爆の無い)超音波断層検査によって骨盤計測を行うことができないものか研究してきました。  永田先生(前鹿児島大産婦人科教授)、吉永先生(鹿児島大産婦人科准教授)、片之坂先生の御協力をえて、日本産婦人科学会で超音波断層法による骨盤計測方法(演者 片之坂先生)が発表され、1999年にはアメリカの産婦人科学術誌(American Journal Obstetrics and Gynecology ) にその論文(片之坂先生による)文献1)が掲載されました。

文献1)Measurement of obsteric conjugate by ultrasonic tomography and its significance. Katanosaka M, Yosinaga M, Fuchiwaki K,Nagata Y, Department of Obsterics and Gynecology,Facuity of Medicine

Kagoshima University, Sakuragaoka,Japan ≪ Am J Obstet Gynecol . 1999 Jan;180(1 Pt 1):159-62 ≫

骨盤計測の中で、もっとも重要なものが産科的真結合線(恥骨内側から仙骨岬角までの距離)および骨盤開角(産科的真結合線と仙骨内側との間の角度・約90 度位が普通)の計測であると考えております。

※ OC(obstetric conjugate )産科的真結合線

※ PA (pelvic aperture angle ) 骨盤開角

超音波断層方法を工夫することによって、超音波検査により、OCおよびPAの近似値(きんじち)を計測することが可能であると考えております。

 ※ UOC ( ultrasonic obstetric conjugate ) 超音波産科的真結合線
超音波断層法による産科的真結合線・・・・・・・・・UOCは1998年に鹿児島大学産婦人科が提唱したものです。

※UPA(ultrasonographic pelvic aperture angle ) 超音波骨盤開角・・・・・これは私個人が提唱しているものです。コンセンサスは得ておりません。

産科的真結合線が短いとトンネルの入り口がせまいということになります。骨盤開角が小さいと骨盤の奥行きがせまいということになります。

私は妊娠第8ヶ月の妊婦健診の段階からUOC・UPAの計測を行っており、骨盤のせまい妊婦さんには、難産を予防するための対策を早めに考えるようにしています。従来、放射線被爆の問題があるので、レントゲン撮影による骨盤計測は妊娠10ヶ月にせいぜい1回だけ行えるだけであって妊娠8ヶ月から繰り返し行うことはできませんでした。超音波による骨盤計測によって、早めに妊娠第8ヶ月から骨盤の広さを知ることができるようになったのです。

骨盤のせまい妊婦さんには早くからそのことを自覚してもらい、難産を回避する努力を早めに開始してもらうのです。

これは実際の超音波断層映像ですが、平均的な広さの骨盤です(妊娠8ヶ月)。

UOC(超音波産科的真結合線)は13cmでUPA(超音波骨盤開角)骨盤開角は90度以上あります。このような妊婦さんでは、極端に太ったり、運動不足や子宮頸管強靭(非常に硬く開大しにくい状態)、あるいはまた赤ちゃんが大きくなりすぎたりしないかぎり、安産になるものと予想されます。

私の過去の調査によれば、超音波による産科的真結合線(UOC)の平均値は12.9~13cmです。従来から定義されているX線による産科的真結合線 (OC)の平均値は11.5cmです。1.5cmくらいの違いがありますよね。

このように超音波検査による検査値の基準は従来のX線による検査値の基準とまったく違うものとなります。このような相違は検査方法がまったく違うためにおこることなので、むしろ当然のことなのです。その詳細についてはホームページ内の他コーナー「医家向け 超音波による骨盤計測方法」を参考にしてください。骨盤がせまいのか広いのかが問題なのですから、基準値は計測方法によって変えればよいのです。

 超音波による骨盤計測はX線による骨盤計測(グースマン法)とは似ていますが同じものではありません。X線よりも少し曖昧で、少し大きく計測されますが、慣れれば気軽にくりかえし検査できますので、妊娠中、あるいは分娩経過中であってもリアルタイムに分娩経過を観察することができます。

妊娠中や分娩経過中に骨盤の中へどれぐらい赤ちゃんの頭が下がってきているかということがわかりますので、妊娠中であれば切迫早産(早産しかかっている状態)の診断にも応用できますし、分娩経過中であれば「骨盤の中に赤ちゃんの頭が半分以上は入り込んでいるな?完全に骨盤の中に入り込んでいて下からもうすぐ生まれそうかな?それともこれは難産になりそうか?なかなか入り込まないので帝王切開のほうが安全かな?回旋状態が変かな?児頭の骨重積が顕著で、長引くと赤ちゃんがきつそうかな?」などなど・・・われわれ産科医師にとって赤ちゃんの安全を守るためのたくさんの情報を得る事ができるのです。

これは骨盤がせまい妊婦さんの実際の超音波断層写真です(妊娠8ヶ月)。

UOC(超音波産科的真結合線)は 11.9cmでかなりせまいのですが、UPA(超音波骨盤開角)が95度(上図のアルファ50度+ベータ45度)と広いですので、骨盤内に早めに児頭を下降させれば分娩に問題はありません。このような情報を妊娠8ヶ月から得ることでき、早めに妊婦さんに準備してもらうことによって難産を回避させることができるのです。

超音波およびX線による骨盤計測はしかし、難産を予測する上で、絶対的なものではありません。分娩の難易度には骨盤の広さ以外に多くの因子がからんできます。骨盤が広くても難産になることがありますし、骨盤がせまくても意外に安産になる場合があります。

妊娠中の体重増加、肥満度、子宮頸管成熟度、骨盤内の胎児頭回旋状態、産婦の年齢、分娩回数、骨盤形態、仙骨形態、胎児頭の大きさ、胎児頭の柔軟性(応形能力)、陣痛の強さ、破水の有無など・・・・他にもまだ多くの因子がからんできます。これら多くの因子の中でも、骨盤の広さ、形は分娩の難易度に大きく影響を与えるものなのです。

※ UOC( ultrasoic obstetric conjugate )超音波産科的真結合線
コンベックス方式経腹超音波断層法により計測された産科的真結合線

※ OC( obstetric conjugate )産科的真結合線

↑このページのトップに戻る