妊娠糖尿病にはいそいちロカボ食 2022年改訂
「ロカボ食」は山田悟医師が提唱しているゆるやかな糖質制限食です。「ロカボ」はローカーボ(低糖質)の造語です。糖尿病治療を目的として、血糖を上昇させる糖質摂取を1日あたり、糖質量70~130gに抑える食事療法です。
一方で、後半に説明しますが、「いそいちロカボ食」は山田医師のロカボ食を、妊娠糖尿病むけに当院独自にアレンジしたもので、糖質摂取を1日あたり、120~140g程度にゆるく抑えるものです。
「ロカボ食」を説明する前に、まず「低カロリー食」について説明しなければなりません。現在の日本では、2022年現在、妊娠糖尿病の食事療法はいまだに「低カロリー食」です。「低カロリー食」にすると、確かにカロリーはお腹が減るほどの1600~1800kcalと低く、いかにも糖尿病に有効だろうと思うわけですが、そのうち5~6割を何故か糖質が占めるように献立されますので、単純に4kcal/gで計算すると、糖質は1日あたり200g~270gと意外に高くなり、糖尿病の治療食としては高糖質ということになってしまいます。
この「従来の低カロリー食は実は意外に高糖質」という事実が非常に重要です。この事実を知ってしまうと、糖質5~6割の低カロリー食で本当にいいのか疑問がわいてきます。
妊娠糖尿病においては、食後2時間の血糖コントロール目標は120mg/dl以下という極めて厳しい設定となっています。従来の低カロリー食で管理すると、高糖質ですので、食後2時間血糖の目標値をクリアできない場合が少なくないのです。
私が「従来の低カロリー食は意外に高糖質」という事実を知ったのはつい最近、2015年ごろです。以前は、妊娠糖尿病と診断すると、何の疑いもなく栄養士に「低カロリー食」を指示していました。糖質の割合などには無頓着で、産婦人科診療ガイドラインに粛々と従い、何年間も従来の「低カロリー食」で妊娠糖尿病の食事療法を行っていたわけです。
「低カロリー食」は、カロリー計算が面倒くさいですし、(これは栄養士にとっては、本当に大変らしいです。医師は指示をするだけで栄養学の詳細はあまり理解していなかったのです。)おなかが減る割に血糖コントロールがうまくいかず、1日1800カロリーでだめだと、1600カロリーにまで落とし、さらに6分割食にしたりして、それでもうまくコントロールできずに治療が行き詰まるという印象でした。そうなると高次施設に紹介するのですが、そこでも糖質60%の「高糖質の低カロリー食」ですので、コントロールできないとインスリン治療を受けることになってしまいます。
2015年、本屋で立ち読みしていたら江部康二先生の本に出会い、「糖質制限」という言葉を初めて知りました。恥ずかしながら「糖質制限」についてはあまり知りませんでした。「脂肪は血糖をあげない。血糖を上げるのは糖質のみ。」この事実は衝撃でした。
おそるおそる平成29年頃から「糖質制限食」で妊娠糖尿病を治療開始しました。その結果は良好なものでした。治療の手応えは確実なものでした。しかし、ガイドラインとは違う方法ですので、途中で他の産婦人科に紹介する際には、紹介先の先生にどう思われるのか心配でした。
またちょうどその頃(2016年)に、「炭水化物抜きダイエット」の本を出版しておられ「炭水化物ダイエットの第一人者」と言われていた著名人が急死され、「糖質制限は危険」などとマスコミが騒ぎ始めていました。「炭水化物抜きダイエット」においては、肉食や焼酎などのアルコールが容認されていますが、動物性脂肪の多食・アルコールの過飲は血管の油汚れ・動脈硬化の原因となるようです。妊娠中は動物性脂肪の過食・揚げ物など植物油脂の摂りすぎには注意が必要です。アルコールは厳禁です。
「糖質制限食」が危ぶまれる理由は、糖質を減らすかわりに脂質を増やすところでしょうか?脂質は身体に必要な栄養素ですが、何でも油で揚げて食べるという食習慣・加工肉などの多食は腸の炎症・血管の油汚れによる動脈硬化・糖尿病・肥満の原因となるようです。油脂は「諸刃の剣」です。脂肪の摂り方に注意が必要です。
ともあれ、「糖質制限」に対する偏見や誤解があまりにすさまじいので、一時期はさすがに世間の目をおそれて、糖質制限をやめようかと悩んでおりましたところ、本屋で今度は山田悟医師の「ロカボ食」の本と出会いました。「ゆるやかな糖質制限」=「ロカボ」・・・・・「これこそ妊娠糖尿病に安全で有効な食事ではないか。」と思いました。
「糖質制限食」もいろいろありまして、その中には、糖質摂取を究極的な1日10~50g以内に抑えこみ、その結果として産生される「ケトン体」を主なエネルギー源として生活する「ケトン食」という極度の糖質制限食もあるようです。小児てんかんや末期がんの治療食として応用されています。(・・・「ケトン体」に対する、小生の認識はここ数年で大きく変わりました。そのことについては別の機会に、もう少し勉強してから、私見を述べたいと思います。)
「ロカボ食」はこのような過度の糖質制限ではありません。妊娠中でも安心して行ってもらえるゆるやかな糖質制限食です。糖質が全くダメということではなく、毎食、適度にご飯を食べる方法です。過剰に糖質を摂らないようにするだけです。
「ロカボ食」で妊娠糖尿病を管理するようになってから数年以上経過し、70名以上の妊娠糖尿病治療を行いましたが、ほとんどの方で良好な血糖コントロールがえられています。
2017年頃からは1日あたりの糖質摂取を130~150gとするさらにゆるやかな糖質制限食も試みました。このゆるゆるの糖質制限食を「いそいちロカボ食」と称しています。軽度の妊娠糖尿病の場合、こんなゆるゆるの糖質制限でも治療できることが判ってまいりました。現在、妊娠糖尿病の約8割は「いそいちロカボ食」で管理・治療しています。
ゆるゆるの糖質制限食である「いそいちロカボ食」は特に複雑なものではありません。主食のご飯を毎食重さ80gにへらし、その他の副食メニューは普通食と変わらず、味付けの砂糖をラカントS(エリスリトール)に変えるだけです。間食のおやつは低糖質(糖質10~15g)の物にします。
ラカントS(エリスリトール)は糖質(糖アルコール)ですが、血糖はあげないようです。カロリーもゼロです。安全な甘味料として認可されています。
この数年間、いそいちロカボ食は、当院栄養士の努力によって、すこしずつ昇華してきました。その結果、2020年以降、軽度の妊娠糖尿病に対しては、1日あたりの糖質量を130g前後、おおよそ120~140gとする献立が適当であるということになってきました。カロリー計算してみると、1600~1800kcalとなり、なんと低カロリー食でもあることがわかってきました。PFCバランスはたんぱく20%、脂質約40%、糖質40%です。つまりいそいちロカボ食は、従来の「低カロリー食」のPFCバランスを変えただけのものといってよいようです。いそいちロカボ食は低糖質食でありつつ、かつ低カロリー食でもあるということです。
栄養士によると、タンパク質の20%はなかなか変えられないようでして、どうしても糖質と脂質のバランスを変える作業になるとのことでした。糖質をおとすと、脂質がふえる。これをどの程度のバランスにするかが鍵となります。従来の50~60%となっている糖質バランスを、40%まで落とす献立を考えればよいようです。そして悪い油(過酸化脂質)をへらす献立や調理方法を工夫します。
「いそいちロカボ食」で食後血糖のコントロールが不十分な場合は、ご飯を毎食重さ70gにへらし、おやつは糖質10g以内の物にして、デザートの果物を省きます。これは山田悟医師の推奨する糖尿病治療食とほぼ同じですので、当院ではこれを「山田ロカボ食」と称しています。しかしながら、糖質量は山田医師の推奨するところの70~130g/日ではなく、100~130g/日くらいにゆるめに調整するようにしています。つまり1日あたり糖質を10~20g落とす程度にとどめます。妊婦で、1日あたりの糖質量を100g未満におとすのは酷ではないかと思います。「山田ロカボ食」でコントロール不良の場合は高次施設へ紹介しますが、そうした妊婦はほとんどいませんでした。
ゆるやかな糖質制限食である「ロカボ食」によって、妊娠糖尿病の大半が治療できると思われます。理屈は簡単です。血糖を上げるものが糖質のみであり、糖質摂取を減らせばよいだけの話なのです。しかもゆるやかに糖質をへらすだけでもOKなのです。そしていそいちロカボ食は低カロリー食でもあるのです。
当院では今後も妊娠糖尿病治療は「ロカボ食」で行います。何卒、ご理解のほどをよろしくお願い申し上げます。決して、危険な食事ではありません。
現在は、ロカボ食に加えて、悪い油をへらす調理方法を模索・検討しています。
以下は、当院の栄養士が妊娠糖尿病の妊婦さんに行っている栄養指導の実際です。参考にしてください。
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ご飯は必ず、量りで計量する。
「いそいちロカボ食」ではご飯80g。「山田ロカボ食」ではご飯70g - 朝食は抜かない。妊娠中、空腹時間が長すぎると血糖値が下がりすぎて昼食後の血糖値が急上昇してしまう。
- 食べる順番 野菜➡お肉・魚➡ごはん(まず野菜などの食物繊維を摂り、糖の吸収を緩やかにする。次に満腹感を高めるタンパク質の多いものを食べる。)
- 糖質オフだと、つまり穀物を減らしすぎると、便秘になりがち。適当量の穀物はOK。そして、いろいろな食物繊維を今まで以上に摂るようにする。
- 小腹(こばら)がすいたら、昆布・ナッツ類・小魚。間食は1日、重さ50gが目安。ただし、ナッツは脂肪が多く、食べ過ぎないように。
- パンを食べるときはブランパンがおすすめ。※ブランとは小麦の外皮。
- イモ類、南瓜(カボチャ)は高糖質。食べる時は気を付ける。
例えば、ポテトサラダを食べるなら、じゃが芋の分だけご飯をへらす。
じゃが芋より野菜の量をふやす。じゃが芋をおからに換える。 - おかずの味付けが高糖質にならないように
トマトケチャップ・みりん・砂糖・濃厚ソース・焼き肉のたれ・・など注意。 - 酢は糖質の吸収を緩やかにする調味料です。米酢・黒酢より穀物酢・リンゴ酢・ワインビネガーの方が糖質少ない。
- パスタ・ラーメンが食べたくなったら、蒟蒻(こんにゃく)麺。
- 揚げ物は衣やつなぎに注意が必要。
きなこ・おから・高野豆腐は〇 パン粉・小麦は× - 春雨はヘルシーなイメージがあるが実は高糖質。
- ラカントS(エリスリトール)は血糖の上昇無し。砂糖の代わりに使える。
- 身体を動かすなら、血糖が高くなる食後1時間後がよい。
- 夕食では1日に消費したタンパク質・ビタミン・ミネラルの補給が重要。
夕食では炭水化物をなるべく控える。 - 果物は朝食の時に食べるとよい。ミネラル・ビタミンが有効活用される。 野菜ジュースやスムージーは咀嚼しないので、摂りすぎてしまい血糖が急上昇するので飲まない方が無難。
- 焼き肉のタレは高糖質。塩かレモンに換える。
- 外食の食べ物
焼き鳥・煮魚・煮物・照り焼きには砂糖とみりんが多いので要注意。
定食ものでは、ご飯を控え、納豆・冷奴・お浸し・サラダをプラスする。 - コンビニエンスストアでの食材
ゆで卵・サラダチキン・冷奴・魚の水煮缶・糖質の少ないおでんの具などがよい。 - 糖類(とうるい)ゼロと書かれているものは要注意。甘味料などの糖質が含まれる。
糖質(とうしつ)ゼロは糖質を含まないのでOK。 - ひと口食べたら30回かむ。30分以上かけて食事する。
- 油は良質のもの新鮮なものを使う。古い油は使わない。
テフロン加工のフライパンで油の量が減らせる。
ショートニング・マーガリンなどは減らす。 - 発酵食品や食物繊維で腸内環境を整える。
「いそいち産婦人科における妊娠糖尿病の食事療法。」
ゆるやかな糖質制限食(糖質量目標130~150g/日) である「いそいちロカボ食」の献立例です。参考にしてください。 糖質量・炭水化物量・総カロリー量・PFCバランスの計算は 栄養管理ソフト「栄養マイスター」企画開発販売元 アクセスインテリジェント社製を 使いました。 砂糖の代わりに、ラカントを使います。
「入院1日目」
朝食 ごはん80g 筑前煮 和え物 キャベツの味噌汁 牛乳

昼食 ごはん80g カジキのナッツ炒め 水菜と豆腐 胡瓜枝豆サラダ スープ

おやつ シャトレーゼの糖質オフどら焼き
夕食 ごはん80g おやしと豚肉の炒め さつま揚げコロコロ煮 春菊サラダ すまし パイン

1日目の糖質量 148.4g 炭水化物 166g 総カロリー1723kcal
PFCバランス タンパク質 18.7% 脂質 40.5% 糖質 40.8 %
「入院2日目」
朝食 ごはん80g 塩サバ 旨煮 かぼちゃと油揚げの味噌汁 牛乳

昼食 赤飯 80g 豆腐のハンバーグ 鯖大根 ふきサラダ すまし

おやつ ミルク寒天 砂糖の代わりにラカント使用 低糖度いちごジャム
夕食 ごはん80g 鯵の香りパン粉焼き ポークビーンズ シーザーサラダ スープ 日向夏

2日目の 糖質量 154.1g 炭水化物 169.4g 総カロリー1859kcal
PFCバランス タンパク質 19.2% 脂質 42.2% 糖質 38.6%
「入院3日目」
朝食 チーズしらす干し食パン 70g 目玉焼き トマトスープ 牛乳

昼食 ごはん80g 鰤(ぶり)の韓国風焼き 豚バラとゴボウの塩炒め チョレギサラダ 味噌汁

おやつ キウイ・チーズ
夕食 ごはん80g ステーキ 人参しりしり 小松菜胡麻和え すまし

3日目の 糖質量 122.8g 炭水化物 37g 総カロリー 1822kcal
PFCバランス タンパク質 19.7% 脂質 47.1% 糖質 33.2%
お祝い膳の札が誤ってのっています。
「入院4日目」
朝食 ごはん80g ウインナーソテー ひじきの炒め煮 里芋とワカメの味噌汁 牛乳

昼食 キノコ焼肉丼 白菜と豆腐のチャンプルー ピーマンエノキナムル スープ

おやつ 和菓子 25g
夕食 ごはん80g 魚のマヨソース 高野豆腐煮 ナスマリネ すまし イチゴ

4日目の糖質量 148.5g 炭水化物 166.1g 総カロリー 1932kcal
PFCバランス タンパク質 17.5% 脂質 47.3% 糖質 35.2%
「入院5日目」
朝食

その後退院。
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土曜日 | 受付時間 午前9時~12時まで 新患受付は午前11時30分で締め切らせていただきます。 再来の患者さんは12時まで受け付けております。 |
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