当院の無痛分娩マニュアル

1. 同意書の提出

事前に説明書をよく読んでいただき、硬膜外麻酔・陣痛促進剤・メトロイリンテル・人工破膜などの医療行為について充分な説明をうけてもらい、同意書にサインしてもらいます。

2. 子宮頸管(子宮の出口)開大方法

分娩を誘発するには、子宮頸管が2~3cm以上開大している必要があります。
開大不充分な場合には、前日に入院してもらい、ラミセル・ダイラパンなどの子宮頸管拡張具を子宮頸管に挿入し、翌日の朝に抜去し、子宮口を3cm以上開大させます。
使用する際には、事前に十分説明いたします。

3. 当院の硬膜外麻酔方法の実際

朝は絶食です。適宜、浣腸します。7時45分頃から点滴・補液を開始します。( 当日入院の場合は、朝食を抜いて、7時20分に入院となります。) 8時に前日にいれたラミセル・ダイラパンを抜去し、助産師が内診します。
そのあと、左下の側臥位で麻酔に適した体位をとってもらいます。まず医師が背中の超音波検査を行い、仙骨と第3〜5腰椎棘突起を観察し,第4腰椎棘突起とヤコビー線との位置的関係を確認した後、第5腰椎から順番に第1腰椎まで、棘突起間の窪みを触診していき、穿刺部位を決めます。そして第1〜2腰椎棘突起間の皮膚表面から硬膜(こうまく)までの距離を超音波で計測します。(黄靭帯は硬膜の5ミリくらい手前に存在するのですが、残念ながら超音波では判別困難であるようです。)この距離計測は測定誤差が少なからずありますが、非常に重要です。通常は4cm前後ですが、やせた方では3cm未満の場合があり硬膜を穿刺しないように細心の注意が必要です。肥満妊婦さんの場合は、5cm以上と深い場合があり、穿刺の難度があがります。緊急帝王切開の場合に備えて、第3〜4腰椎棘突起間の硬膜までの距離計測もしておきます。
その後、背中を厳重に消毒します。当院では計画分娩の場合、通常 L1/L2(第1〜2腰椎棘突起間)を穿刺します。穿刺できない場合はL2/L3を穿刺します。 穿刺前、皮膚には局所麻酔をします。
硬膜外針という特殊な針(最近はディスポのものに変わっており、外筒には目盛りがついていて便利になりました。)で慎重に穿刺し(当院ではシリンジ内空気の抵抗消失法。)、黄靭帯という丈夫な膜を突き破って硬膜外腔という脊髄の手前にあるスペースに針先が入りましたら先ず生理食塩水を4〜5ml、硬膜外腔内に注入します。そのあとに細いチューブを硬膜外腔の中に3〜3.5cmくらい挿入します。硬膜外腔チューブが左右にずれやすく、ずれて入りますと左右どちらかの足に痛みがはしります。その際はいれなおします。正しく挿入された後にテストドーズ(試験的に少量の麻酔液を注入し反応をみる。)を2ml注入します。麻酔液は0.25%マーカイン液を使います。穿刺部位を保護ガーゼでおおいチューブが折れないようにして、清潔に密閉・被覆(オプサイト使用)します。チューブを背中側から首の横に回して、テープでしっかり固定します。
テストドーズの5分後に、体位を右下側臥位にかえて、マーカインを2ml注入します。その5分後にセミ・ファーラー体位になって、さらにマーカインを4ml注入します。
結局、当院での麻酔液初回投与量は0.25%マーカイン8mlということになります。血圧が下がる方では、エフェドリンの希釈液(エフェドリン1ml・40mg+生理食塩水19ml)を1回で3ml(6mg)ずつ静注します。
初回投与後に、必要に応じて、メトロイリンテル(ネオメトロ100mlもしくはCookダブルバルーン80ml+80ml)を頸管内に挿入します。メトロ挿入後のアクシデントとして最も警戒すべきが臍帯下垂と臍帯脱出です。メトロ挿入前に超音波検査で臍帯の位置を確認します。臍帯下垂・脱出はまれではありますが、メトロ使用していなくても起こりうる深刻な産科偶発合併症のひとつです。
その後、陣痛促進剤を使用し、陣痛を誘発・促進します。5%グルコース液500ml+アトニン5単位を10ml/h から自動輸液ポンプを用いて点滴静注します。胎児心拍数・陣痛監視装置を母体のお腹に装着します。潜在的な胎児機能不全や過強陣痛がないかを連続的に監視します。

4. 麻酔維持の方法

当院はクーデックシリンジェクター(大研)を使用しています。麻酔維持液は 0.25%マーカイン30ml+生理食塩水30ml+レペタン0.2mg・1ml です。つまり 0.125%に希釈されたマーカイン液+レペタンです。レペタン(ブプレノルフィン)を使用する施設は少数派だろうと想像しますが、当院では30年以上の使用経験があり、麻酔効果良好で、安全性も高いと評価しております。
初期投与3回目投与後30~40分経過してから、麻酔維持液を開始します。フローセレクターにより、4,8,12ml/h の注入速度が選択できます。通常は8ml/h で開始し、適宜、4ml/hか12ml/h にきりかえています。これにより麻酔時間は5~10時間程度維持できます。この間は、患者監視装置・心電図モニター・胎児モニターが装着され、ナースステーションでも監視できるようにし ています。麻酔維持液がなくなり、当日の無痛分娩を継続する場合は 0.25%マーカイン20ml+生理食塩水20mlを追加します。
子宮頸管強靭や子宮頸管熟化不全により。当日15時前後までにメトロイリンテルが脱出しない場合は、17時前後まで麻酔と陣痛促進を継続・待機します。メトロイリンテルの脱出をもって、その日の分娩誘導は中止となり、翌日に再誘導をおこないます。夕方までにメトロが脱出しない場合は、メトロをぬき、やはり分娩誘導を中止し翌日の再誘導となります。補液・点滴は継続します。しばらくの間、胎児監視装置を装着します。抗生剤を8~12時間おきに点滴静注いたします。夕食は20時ごろに摂ってもらい、よく噛んで食べてもらうように指導しています。夜間は必要に応じて、胎児監視装置を装着します。硬膜外麻酔チューブは留置したままとなります。このように2日がかりの無痛分娩管理となる場合がすくなくありません。最近、増える傾向にあります。2日がかりの場合、無痛分娩費用は2倍にはならず、5割増し程度に抑えてあります。
*2日がかりの分娩誘導となった場合、2日目の朝は絶食になります。適量の水分・ゼリーの摂取はOKで、必要に応じてその都度、助産師が提供します。メトロイリンテルは使用せず、8時から陣痛促進剤の点滴を開始し、陣痛が有効になり次第、人工破膜(次項で説明します。)を施行します。痛みが強くなり、耐えられなくなってきたところで、硬膜外麻酔を開始します。麻酔液の初期投与・麻酔維持の要領は前日と同じです。

5. メトロ脱出後の人工破膜

人工破膜とは子宮口付近の卵膜・胎胞を人工的に破り、破水させる処置です、分娩経過中に自然に卵膜が破れることもあり、自然破水といいます。破水すると、陣痛が強くなり、児頭が下がりやすくなります。
当院では原則として、メトロ脱出後に人工破膜を行っています。前述しましたが、この際にもっとも警戒すべきものが臍帯下垂・臍帯脱出です。破膜する前にカラードップラー経膣超音波検査を行い内子宮口付近に臍帯が無いかをチェックします。破膜後は経腹超音波検査で臍帯の位置を確認します。( 前述しましたが、夕方までメトロ脱出が遅れた場合もしくは脱出しない場合は、人工破膜は施行せず、当日の誘導は中止となり、翌日に再誘導となります。)
その後は胎児監視装置で過強陣痛の有無を監視し、陣痛が強すぎれば、陣痛促進剤を減量あるいは中止します。胎児が下降し、児頭圧迫により胎児徐脈が出現しやすくなりますので、必要あれば、産婦さんに酸素を吸入してもらいます。臍帯巻絡があれば、胎児変動性徐脈が出現・高度化することがあり、陣痛促進剤を中止します。その際は臍帯下垂も警戒しなければなりません。臍帯下垂が疑われれば、緊急帝王切開となります。
人工破膜後、子宮口が7~8cm開大した時点で、頸管が突っ張るように硬い場合は、頸管をやわらかくする目的で ブスコパン1A+20%糖液20ml を緩徐に点滴の三方活栓から側注する場合があります。その際。産婦さんは頻脈となり、心臓がドキドキしてくることがあります。心電図モニターを観察ながら、できるだけゆっくりと何回かにわけて少しずつ注射します。即効性があり、有効な場合は、急に子宮口が開大する場合があります。その際は、子宮頸管裂傷の併発に注意しなければなりません。

6. 分娩(当院における子宮口全開大後の方針)

当院は子宮口が全開したら、硬膜外麻酔液注入を止めます。そして怒責をかけてもらいます(いきんでもらう)。通常のお産と同じように、分娩第二期(全開大から児娩出まで)の時間延長は避けるようにしています。それでも無痛分娩の場合は麻酔により「いきむ力」が弱くなりますので第二期が延長しやすく、当院では吸引分娩となることが多いようです。もちろん、うまく怒責できて自然に自力で生める方もおられます。高血圧の場合は、麻酔を継続し、むしろ増量する場合もあります。※ 無痛分娩や誘導分娩に限らず、分娩中に高血圧が重症化する傾向になった場合は、当院ではマグネゾールを点滴ルートの三方活栓よりシリンジポンプで自動注入します。(詳細は看護マニュアルに記載します。)

7. 緊急帝王切開 

分娩経過中に回旋異常・胎児機能不全・分娩遷延・子宮頸管強靭・児頭骨盤不適合などの異常により経膣分娩を断念していただく場合があります。
その場合は緊急帝王切開となります。ご家族に、理由を説明し、同意を得て手術同意書・輸血同意書にサインをしていただく必要があります。当院はなるべく自施設で緊急帝王切開をおこなうように努力しておりますが、事情により当院で緊急対応ができない場合は高次施設である都城医療センターに救急搬送・緊急手術を依頼しております。
緊急帝王切開の場合の麻酔は、腰椎麻酔を追加します。手術準備を早急に済ませ、手術室に移動します。側臥位になってもらい背中のL3/L4かL4/L5の棘突起間を ペンシルポイント針という特殊な腰椎麻酔用の細い針で穿刺し、0.5%マーカイン(等比重)を1.5~1.8mlを脊髄腔内に注入します。そうすると下半身が完全に麻痺し、手術可能となります。硬膜外麻酔チューブからは手術途中で麻酔液(2%キシロカイン液)を適量(腰椎麻酔後30分経過ごとにボーラスで5ml)使用し、手術後の鎮痛では再度、0.25%マーカイン20ml+生理食塩水20ml+レペタン1mlのカクテルを10ml/hで自動注入しています。麻酔終了後、チューブは抜去します。その後の鎮痛はボルタレン座薬25mgを使います。

8. 最後に

当院は一人の産婦人科医師が診療しているクリニックで、麻酔専門医資格を持ってはおりません。数年前に、当院のような一人だけの産婦人科医師クリニックで無痛分娩後の母児死亡が立て続けに起こり、社会問題となりました。その時は当院での無痛分娩を一時、中断しておりました。現在はまた少しずつ増やしています。
現在は、当院のお産の数は減ってきていますが、医学的に無痛分娩をしたほうがよさそうな妊婦さんは逆に増えてきております。
出産年齢の高齢化・妊娠高血圧症の増加・子宮頸管熟化不全の増加などが原因と思われます。最初から無痛分娩を希望される妊婦さんも増えています。
皆さんの希望にはなるべく答えていこうとは思いますが、なるべく麻酔なしでの自然分娩をおすすめします。当院での無痛分娩は一人の産婦人科医師のみでおこなっていますので、あまり増やすことはできません。どうぞご理解ください。

2023年 3月17日

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