妊娠中の食事について

◎ 妊娠中の食事で、最も大切な事は、「糖質過剰」をさけることです。糖質をとりすぎると太りますし、危険な食後高血糖をまねき、妊娠中の様々な病気の引き金となります。さらに、過剰な糖質を代謝するためにビタミンやミネラルが浪費(=むだづかい)され、ビタミン・ミネラル不足が生じます。
現代は、糖質過剰におちいりやすい食環境になっています。妊娠中は糖質過剰をさけ、良質の脂肪を摂取し、タンパク質摂取を増やす必要があります。

※ 炭水化物と糖質は似ていますが、少し違います。
炭水化物・タンパク質・脂質を三大栄養素と呼びます。糖質は炭水化物から食物繊維をひいたものです。糖質を主成分とするものはパンやご飯などの穀物、イモ類、砂糖類などです。食物繊維は野菜・海藻・キノコ類などにふくまれ、腸内環境を整える効果があり、妊娠中、積極的に摂るべきものです。

◎ 妊娠・出産により、身体の中に蓄えられた鉄分( 貯蔵鉄 )がたくさん消費されます。鉄不足により妊娠貧血や、産後は産後うつや不妊症の原因となります。したがって、妊娠中は鉄分の含まれる食物を普段よりも多く摂る必要があります。その他、タンパク質・良質の脂肪・ビタミン・ミネラルも不足しがちになりますので、食事による補充が必要です。

◎ 妊娠中は消化機能が低下します。一度にたくさん食べるとお腹をこわしやすい。妊娠中はよく噛んで食べる、極端に冷たいものは避ける、消化しやすく調理する、食べなれない生ものや塩辛い加工食品はさけるなどの工夫が必要になります。いろいろな食物繊維の摂取は腸内環境整備に重要です。

妊娠前のBMI (体格指数)によって、注意点が変わってきます。 ご自分のBMIを計算してみてください。計算方法は BMI =体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)です。 BMI 16未満 →やせすぎ。 17〜18 → やせぎみ。 BMI22が平均的。 25以上が肥満。 30以上は超肥満。

妊娠前がBMI18未満の方(やせている方)の食事

普段通りに食べます。食欲が出てきたら、食べる量を適当に増やしてもかまいませんが、妊娠中の体重増加は10〜12kgまでに抑えましょう。甘いジュースやお菓子など砂糖の過剰摂取は危険で急激な食後高血糖をまねきますので、お腹の赤ちゃんの健康によくありません。食欲にまかせて、甘いものをたくさん飲んだり食べたりする事はやめましょう。会話を楽しみながらおやつとして適量を食べるのはOKです。夕方以降、甘いものをたくさん食べると太る原因になります。
 ご飯を2杯、3杯と食べる事はやめましょう。ご飯やパンなどの主食には糖質が 多く含まれており、食べ過ぎると体脂肪として蓄積され、太る原因となります。
肉、魚、卵、チーズ、大豆などの料理をおいしく食べて、ストレスのない妊娠生活をおくりましょう。野菜・海藻・キノコなど食物繊維もきちんと食べましょう。
 やせている方はすでに貧血気味で、妊娠前から鉄不足になっている方が多いようです。 妊娠初期の検査でフェリチン値(貯蔵鉄)の低い方は、ヘム鉄などのサプリメントをおすすめする場合があります。

妊娠前がBMI22前後の方 (ふつう体重の方)

普段通りに食べるのが基本です。妊娠中の体重増加は8kgまでに抑えましょう。妊娠したからといってたくさん食べる必要はありません。つわりの時期がすぎてくると、ご飯がとてもおいしくなってくるようです。そして赤ちゃんのために、もっとご飯を食べるように家族からもすすめられます。ここに落とし穴がひそんでいます。ご飯1杯(150g)には糖質が55gふくまれており、角砂糖17個に相当します。角砂糖17個食べるのは困難ですが、ご飯はおかずがあれば、食欲にまかせて2杯くらい軽く食べられます。そうすると角砂糖30個分くらいの糖質を摂取してしまい、確実に太ります。余分な糖質は脂肪に代謝され、体脂肪として蓄積されるからです。太る原因は過剰な糖質摂取であり、脂肪摂取ではない事が大規模調査研究でわかっています。産後に元の体重にもどれなくなりますし、難産や妊娠糖尿病などのトラブルを招きます。
 妊娠中のご飯はやや控えめの1杯100〜120g程度におさえるのが理想的です。その分、肉、魚、大豆、卵、チーズなどのお料理をふやしてもかまいません。
ご飯・パン・麺類などの穀物は糖質量が高く、食べ過ぎると太ります。妊娠中に太りすぎたら、穀物の摂取量を減らすとよいと思います。ゆっくりよく噛んで、本来の味をかみしめながら食べると、血糖の上昇を抑制できます。
野菜・海藻・キノコなど食物繊維をきちんと食べることも重要です。キウイ・アボガドなども優秀です。食物繊維は血糖上昇を抑制します。しかし、市販の野菜ジュースはショ糖が多く含まれており、要注意です。牛乳はコップ一杯までにしてください。(乳糖という糖質がふくまれています。)
 砂糖の摂りすぎは最も危険です。甘いジュース、サイダー、お菓子など甘いものを食欲にまかせて食べ過ぎないようにしてください。果糖という糖質が含まれている甘いフルーツの食べ過ぎも要注意です。しかし、フルーツは食物繊維、ビタミンが豊富にふくまれており、適当に食べるのはOKです。柑橘系のフルーツは便秘によいようです。食べ過ぎがよくないのです。

妊娠前BMI25以上の方 (肥満気味の方)、妊娠中にBMI28を超えた方

元々太っている方は妊娠中、最初から軽度の糖質制限をする必要があります。カロリー制限ではありません。食後の危険な高血糖を招く原因は糖質のみです。脂肪は高カロリーですが、血糖はあげません。従来の低カロリー食は糖質の割合が半分以上を占めており、結果的に高糖質になってしまいます。残念ながら、日本ではまだ低カロリー食で栄養指導するのが主流です。インターネット上では、妊娠中の糖質制限食を危険なものとして批判するサイトが根強く残っていますが、もはや低カロリー食は時代遅れなのです。カロリー計算よりは食品別の糖質量計算をすべきです。

 最近の研究で、胎児は脂肪をうまく利用し、主なエネルギー源としている事がわかってまいりました。元々、太っている方は体脂肪として胎児のエネルギー源をたくさん蓄積しています。胎児はこれをうまく利用して育ちますので、糖質は実はそれほど必要無いのです。糖質を摂りすぎますと、余った糖質は体脂肪となり、さらに太ってしまいます。くりかえしますが、過剰な糖質摂取による食後高血糖は危険なのです。

 

減らした糖質のかわりに良質の脂肪を適当に摂り、必要なタンパク質・ビタミン・ミネラル・食物繊維をしっかり摂れば、妊娠中に糖質制限しても問題ありません。

 

妊娠前BMI25以上の方では、ご飯を徐々に80gくらいまで抑えるように指導しています。そのかわり、肉、魚、卵、チーズ、大豆などを使った料理は増やしてもかまいません。意外ですが、バターやマヨネーズもOKです。適当量、脂肪を増やしてもよいのです。ただし、人工油(マーガリン・ショートニング)や古い酸化した油の使用はやめましょう。妊娠中の体重増加を5〜7kgに抑えるようにしましょう。

 

妊娠前BMI30以上の方では、ご飯を70gくらいにおさえるロカボ食(山田悟医師が推奨しているものです。)をおすすめします。体重増加目標は5kg以内です。
ご飯やパン・パスタなどの小麦系食物・麺類・トウモロコシなどの穀物系のものは糖質が多く含まれますので、食べる量を減らします。

 

妊娠中に太りすぎてBMIが28に近付いてくる方も、その時点から糖質制限食が必要となります。妊婦健診で医師から、食事指導を受けることになります。

 

冷やごはんや麦ごはんなどにして食べると、あるいは雑穀米などを使用する工夫により、血糖値の上昇を抑えることができます。その点、宮崎の「冷や汁」は理想的?

 

もっとも危険なものが、砂糖などの糖分を多く含んだ飲み物です。ジュース、サイダー、コーラなどは急激に血糖値をあげますので飲まない方が賢明です。果糖ブドウ糖液糖など危険な人工甘味料が含まれており、病的に血糖値を乱高下させますので妊娠中は危険です。食後の急激な高血糖は母体や胎児・胎盤の血管を痛める原因となります。
過剰な糖質がタンパク質を糖化して生じる悪玉物質「AGE」(終末糖化産物)が焦げたシミのように様々な組織にベタベタとくっつきその組織を壊していきます。
お菓子、菓子パン、甘いフルーツの食べ過ぎも要注意です。しかし、固形のお菓子(クッキーとかビスケット)やフルーツを、間食として、休憩時間にお茶しながら、適量食べるのはOKです。自分の脳へのご褒美として、おいしく味わって会話しながら食べましょう。糖質を制限すると、途中でお腹が減って来ますので、間食として適量甘いものをうまく利用するとよいでしょう。ただし、砂糖は歯にくっつきやすく虫歯の原因となり,飴玉などをなめ続けるのは危険です。食後の歯磨きを忘れずに。

精製糖質の過剰な摂取は歯周病の原因となります。

最近の研究で、妊婦さんが歯周病を患っていると、歯周病菌による「歯原性菌血症」がおこり、早産や低体重児出産の原因となることがわかってきました。歯周病菌は歯周ポケットの病巣から容易に血液中に入り込み、血液中でも増殖すると言われています。妊娠中は歯周病になりやすいのです。やわらかく調理された糖質は口腔内細菌の格好のエサとなります。特にほっかほっかのご飯やサツマイモなどの柔らかいアルファでんぷんは麦芽糖に分解され悪玉細菌のエサになり、歯根部の虫歯の原因となります。しかしながら、ご飯やふかしたイモも冷えると、でんぷんはベータ化してかたくなり分解されにくいものとなります。・・加熱してやわらかく調理された糖質は歯根にとって大敵ということになります。現代日本における、穀物を主食として加熱し柔らかくして食べるような食習慣は口腔内細菌を増やす原因となり、歯周病を増やしています。
 精製された白米のあったかご飯や加熱されたパンなどのやわらかい糖質を食べた後は、特にしっかりと食後の歯周病対策(正しい歯磨き)をしましょう。

妊娠糖尿病と診断された方

当院は平成29年度から低カロリー食療法をやめ、糖質制限食療法に変更しました。 低カロリー食では妊娠糖尿病による周産期トラブルを完全に防ぐことはできないと考えております。低カロリー食は実質的には高糖質食になってしまうからです。
ただ、残念なことに糖質制限食はいまだ正式に、妊娠糖尿病の治療食としてコンセンサスを得ておりません。糖尿病学会・栄養士会においても賛否両論出ている状況です。
こうした状況では糖質制限食を妊婦にお勧めする事がはたして良いのか悪いのか、結論が出ていません。
 おそるおそる妊娠糖尿病の治療食として糖質制限食を採用し始め、1年以上経過してきましたが、軽度の糖質制限で充分、妊娠糖尿病がコントロールできることがわかってまいりました。最近は3食とも、ご飯などの主食が食べられる山田悟医師の推奨する「ロカボ食」をメインにして指導しています。

 

妊娠糖尿病の重症度によって、個々に糖質制限食の方法がかわります。現在、当院では高雄病院の推奨する (1)プチ糖質制限食 あるいは山田悟医師の推奨する (2)ロカボ食(ゆるい糖質制限食)のいずれかを指導しています。カロリー制限は特にしておりません。糖質を制限することが最重要なのです。

 

軽度な妊娠糖尿病である場合は (3)いそいち産婦人科ロカボ食 を指導しています。これはゆるゆるの糖質制限食で、ご飯の量を80g〜90gにして、おやつを低糖質のもので摂るという方法です。面会人などとの談笑時、茶菓子は適量OKとしています。最近は、切迫早産で入院している方にも、この「いそいち産婦人科ロカボ食」をおすすめしています。

 

いそいち産婦人科のロカボ食は主食の糖質を適当に制限しつつ、肉・魚・卵・チーズなどの良質の脂肪やたんぱく質の割合をふやし、野菜・海藻・キノコなど食物繊維の豊富な食材を多くするものです。揚げ物で使用する油は新鮮なものを使用し、マヨネーズ・バターなどは使いますが、マーガリンなどの人工油は使用しません。MCTオイルを適量、有効に使います。カロリー計算は特にしておりませんが、約1800キロカロリーでカロリーの比率は炭水化物が35%、タンパク質が約20%、脂肪が約45%です。調味料としては、砂糖を減らす目的でエリスリトール(ラカントS)を補助的に使用しています。

 

重症の場合、当院での管理は困難ですので、糖尿病専門医のいる高次施設へ紹介となります。そうならないように、妊娠初期から糖質の過剰摂取には充分な注意が必要です。 

過剰なブドウ糖がタンパク質と結びついて劣化することを「糖化」と言い、細胞が焦げる(こげる)と表現されております。過剰な糖質がタンパク質を糖化して生じる悪玉物質を「AGE」(終末糖化産物)と言うようです。 
この「AGE」が焦げた(こげた)シミのように様々な組織にベタベタとくっつきその組織を壊していくようです。妊娠中に限らず、過剰に糖質を摂ることは細胞の老化を早めることになるようです。活性酸素による「酸化」(錆びる)と過剰糖質による「糖化」(焦げる)が老化現象の主たるもののようです。

(参考文献)

炭水化物が人類を滅ぼす 夏井睦  光文社 2013
糖質制限の真実 山田悟  幻冬舎新書  2015
人類最強の糖質制限論  江部康二 SB新書 2016
ケトン体が人類を救う  宗田哲男  光文社 2015
日本人の9割が誤解している糖質制限  牧田善二 ベスト新書 2016
食品別糖質量ハンドブック  江部康二監修  洋泉社 2016
ケトン食ががんを消す 古川健司 光文社 2016
白米が健康寿命を縮める  花田信弘  光文社  2015
ロカボバイブル  山田悟監修  幻冬舎 2015
「糖質制限」その食べ方ではヤセません 大柳珠美 青春出版社 2017
うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった 藤川徳美 光文社新書 2017
食品の正しい知識  三石巌  阿部出版 2017 再発行
代謝がわかれば身体がわかる 大平 万里 光文社新書 2017 
賢脳食  三石巌  阿部出版  2017
最高の栄養療法「オーソモレキュラー」入門 溝口徹 2018
分子栄養学による治療、症例集 藤川徳美 2018

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